私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「アバター」

2009-12-27 22:26:20 | 映画(あ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
元海兵隊員のジェイクは、遥か彼方の衛星パンドラで実行される“アバター・プログラム”への参加を要請された。パンドラの住人と人間の遺伝子から造られた肉体に意識を送り込むことで、息をのむほどに美しいその星に入り込むことができるのだ。そこで様ざまな発見と思いがけない愛を経験した彼は、やがて一つの文明を救うための戦いに身を投じていく…。(アバター - goo 映画より)
監督は「タイタニック」のジェイムズ・キャメロン。
出演はサム・ワシントン、ゾーイ・サルダナ ら。



何と言ってもすばらしいのは、その映像の美しさと迫力であろう。

惑星パンドラの大自然の映像や、光がこぼれるような森の描写は幻想的ですらあり、心に沁みる。
出てくる動物たちは生き生きとしているし、原住民たちの動きはなめらかで不自然さはなく、メカのフォルムはごっつくて、ちょっとカッコいい。
爆破や飛行シーンなども臨場感抜群。

通常上映で見たけど、それでも圧倒されるような勢いがあった。きっと3Dで見たら、もっとすごいと感じただろう。
そう心から思えるほど、映像のレベルは高く、つくりこまれたものである。


映像だけでなく、世界観の方もしっかりつくりこまれている。
自然と共に生き、自然を崇拝するナヴィのアニミズム的な信仰や、彼らの価値観の描き方は丁寧だし、動物たちときずなを築く細部の設定にはオリジナリティがあって、なかなかユニークである。
そのほか、いろいろな細部描写を見ても、その世界観に深みがあることがわかる。

そういった細やかな設定があるからこそ、きわめてオーソドックスな展開にもかかわらず(ついでに言うと、いくつかの点で「もののけ姫」に似ていると感じた)、映画に引きこまれてしまうのだ。


ところで、このナヴィの文化だが(僕はそこまでくわしくないけれど)、多分、モデルはインディアンことネイティヴ・アメリカンにあると感じた。戦闘のときにする化粧などを見ていると、特にその印象は強い。
そしてナヴィを取り巻く環境は、ネイティヴ・アメリカンが経てきた歴史と重なるものがあるのだ。
それは言うまでもなく、白人入植者によるインディアン居住地への侵略である。

そういう点、この映画は、アメリカ史の負の側面の暗喩とも言えるだろう。
日本人にはピンと来ないだろうが、アメリカン人には受けそうなテーマである。ゴールデングローブ賞の作品賞にノミネートされた理由も理解できるような気がする。


実際、映画の中の地球人の論理は、当時の白人入植者同様、ずいぶん独善的である。
この惑星に高く取り引きできるものがあるから、それを得るため、原住民たちに対して、いま住んでいる場所から出て行けと言い、それに応じなければ、武力で脅そうとする。大半の人間は彼らの文化を理解しようとせず、彼らの文化を尊重し、相互交流の場をつくろうとする良心的な人間は黙殺されていく。

映画として見たら、それはありがちな設定だと思う。
だがそれはいまから百年以上前、アメリカ大陸で、実際に平気で行なわれていたことでもあるのだ。

そう思って見たから、個人的にはいくつかの場面で、かなり心が痛んだ。
ホームツリーが倒されるシーンは、ベタだ、と思いながらも、心がゆさぶられる。
力ですべてを押さえつけようとするのは、良くないな、と思ってしまう。

そんな武力に対して、ナヴィも武力で対応しようとする。
もちろん気持ちはわかるし、彼らとしては、それ以外に手段はない。
そしてそれゆえに、見ていて、僕は非常に悲しくなってしまう。

その場面において、武力を用いることが正しいということはわかっている。
けれど、それは何も生み出すことがないからだ。


最終的にナヴィは地球人を追っ払うことに成功する。
けれど、それは決してハッピーエンドではないだろう。
きっと地球人はまた侵略を開始するだろうし、ナヴィは地球人と戦う以外の選択肢は残されていない。
再びナヴィも多くの犠牲を出すこととなるにちがいない。

主人公が地球人とナヴィのパイプ役になりうる可能性もあるが、多分、性格的に彼では無理である。
映画で描かれた後の世界で待っているのは、恐らく血生臭い戦いだけだ。

そんな僕の見方は幾分悲観的かもしれない。
だが、それと似たようなことは、百年以上前のアメリカはもちろん、アフガニスタンやパレスチナをはじめ、現在の世界でも行なわれていることなのだ。
そういう点、この映画はアメリカ史だけでなく、現代世界の暗喩なのかもしれない。


本作はオーソドックスなストーリーである。だがその映像美や、エンタテイメント性には優れたものがある。
それに、映画の裏には、深く考えこまざるをえないテーマ性がかくれていると僕は妄想した。

深読みしすぎと言われればそれまでだが、表面で見える以上に、本作はなかなか深いと感じた次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



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